「10年で1か国をマスターせよ」

帝人元社長 大 屋 晋 三

 諸君は、これまで学生生活を送ってきたが、実生活のことは何も知らない。可能性はあ

るが、いまはまだオタマジャクシだ。謙虚な気持で、今後5年間は、社会や会社の組織を

じっと文句をいわずにみていてほしい。

 30歳からは、周囲の同僚、同業者と競争して働くようになると、人間の醜い面にぶつか

り、びっくりすることがあるかもしれない。それを分析し、批判する精神をもつことが肝

心である。

 私生活でも、身軽な独身時代とちがって、複雑になってくる。まして定年まぎわになる

と、所帯やつれであたら秀才も価値がなくなり、保身の術のみにたけて誠意がなくなり、

使いものにならない者さえ、ときには出てくる。保身の術などという消極的な枠にはまら

ず大いに秀の才を活用してほしい。

 私自身、大正7年に学校を卒業し、来年で社会人として50年の経験をつむことになる。

諸君は私にくらベたら若すぎるほど若い。マージャンよし、女を愛するもよい。ただ節度

を失ってはいけない。節度を失うほどマージャンをするひまがあれば、強い意志をもって

己れの勉強をするがよい。

 入社して15年たつと、勉強した人間としない人間は、上からみるとすぐわかる。

 帝人は国際企業である。それで語学力が当然必要とされるのだが、諸君の語学力なんか

知れている。語学力、とくに英語をマスターするためには、諸君は常に「ニューズウイー

ク」や「タイム」を読み、10年間寝てもさめても英語のことばかり考えていることだ。

バカでも英語がマスターできる。

 次の10年でフランス語、そのつぎの10年でドイツ語をマスターする。そうすれば、定年

までに三か国語は、完全にマスターできる。

 「天は自ら助くる者を助く」というが、心の中に闘争心を燃やし、定年までその灯を絶

やさぬことだ。ゲーテもいっている。「戦わざる者に勝利なし」と。

「個人の創意をいかし企業の繁栄を」

東京電力元社長 木 川 田 一 隆

 諸君、入社おめでとう。

 諸君の人生の先輩として「時代の精神」について語りたい。いま、日本経済と、それを

組成する企業体はいままでの封鎖的な環境から、本格的な国際化に直面し、近代産業社会

の形成を律する新しい価値観のもとに、大きく組みかえられようとしている。こういう改

革を推し進める者は、もはやわれわれの世代ではない。主としてあなた方、若い世代の情

熱に期待するほかない。

 アダム・スミスいらい、自由主義社会の求めてきたものは、個人を中心とする自由競争

であった。これを軸に人間活動が行なわれるとき、社会全体が自然かつ調和的に発展する

という考えであった。その結果、余弊として社会的な階級対立や抗争、周期的な経済恐慌

にみまわれることになった。こうした自由の歴史への反省の上に立つ近代産業社会は、一

言でいえば、人間の創造性をあくまで追求する高度の工業社会である。

 この理念は、われわれの企業組織にも共通する。個人の創意を生かしっつ、共同目的達

成のために各人が心を通わせ、協力しあう企業社会を作りあげることである。同時に、い

かに低く、つまらない仕事にみえようとも、企業組織の一員として、創意をそそぎ、一つ

一つ人生のレンガを積み重ねていっていただきたい。小事はつねに大事に通ずるからであ

る。

 「随所に主となれば、立つところみな真なり(臨済録)」なのである。

 

「自らの能力を努力で花咲かせよ」

サントリー社長 佐 治 敬 三

 

 今年もまた、若いはつらつたる諸君を同僚として本日ここに迎えることができて、ほん

とうにうれしく思います。

 サントリー株式会社は、今なによりも若い力を必要としています。サントリー株式会社

は、数年前からのビール事業を成功させるためにきわめて大きな困難をのりこえねばなり

ません。この困難を克服し、サントリー・ビールを一人前に育てあげるために、今、サン

トリー株式会社は社運をかけ、その総力を注いでいるのです。

 サントリー株式会社は、今、第二の創業期ともいうべき、たいせつな時期にあります。

サントリー株式会社が、大きく飛躍をとげることができるか否かは、私たち社員全員の双

肩にかかっているのです。まさに男子の本懐というべきではありませんか。

 サントリー株式会社は、明治32年に前社長・鳥井信治郎によって創立されました。私た

ちの先輩がたは、社長を中心として洋酒の国産化を目ざして、それこそ筆舌につくせない

さまざまな困難に打ちかち、日本の洋酒界に君臨するサントリー株式会社を、きずきあげ

てこられました。また日本の洋酒を世界的な地位にひき上げられたのです。今、サントリ

ー株式会社を背負っている赤玉ポートワイン、サントリー・ウィスキー、トリス・ウィス

キー、どの一つをとってみても、その中にはこうした先輩たちの汗とあぶらの、苦労がし

みこんでいるのです。

 サントリー株式会社をここまで導いてきたバックボーンともいうべきものは、創立以来

社内にみなぎっている開拓者精神と、商人魂であったと思います。いつも新しい未開の分

野にいどみ、困難をものともせず正面から立ち向かっていった土性骨(どしょうぼね)、そ

して、いついかなるときにも、よりよい製品をより安く、日本の大衆に提供するという信

条を、貫きとおした商人魂であったと思います。

 第二の創業期に際して、新しくサントリー株式会社の人となられた皆さまにも、この二

つのバックボーンをしっかりと身につけていただきたいと思います。

 諸君は、今学窓を巣立って、社会にその第一歩をふみだされたのであります。これから

の諸君には、仕事を通じて社会に積極的に貢献する生活がはじまります。諸君の仕事の場

となるサントリー株式会社は、諸君と社会との接合点であります。

 サントリー株式会社は、良品廉価主義と開拓者精神とを二本の柱とし、今後もひきつづ

いて生活の新しい喜びを日本中の人々にいや、世界の人々に提供していくことを使命とし

ています。その仕事の上に、諸君の若々しいエネルギーが、一日も早く役だつことを心か

ら望んでいます。

 諸君は自らの能力を、自らの努力によって、最大限に花咲かせてください。学ぶという

ことは受動的なものではないはずです。積極的に諸君の周囲から、できるかぎりのものを

吸収してください。私たちもそのための努力を惜しみません。

 諸君の入社を心からお祝いするとともに、諸君の努力の一日も早く実ることを期待しま

す。


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