『喪主のあいさつ〔故人の父親〕』

 ひとことご挨拶申し上げます。 長女〇〇はお友達の皆さんから贈られた花束に埋まって帰らぬ旅に出かけます。
〇〇歳の一生はあまりに短かすぎましたが、父親としてこれも天命かと思うよりほかありません。

あの子が事故に遭ったのは早春の雪の朝でした。 私が庭に出て雪かきをしておりますと、庭の片偶に咲いていた沈丁花の花びらを胸ポケットに飾ってから『行ってきます」と私に微笑みかけて行った〇〇の姿が忘れられません。

親の口から申し上げるのも憚られますが、あの子は大変いい子でした。 自慢の娘でした。 皆さんのような、いい先輩やお友達に恵まれて、幸せそうでした。

ふつうの人が、七十年八十年をかけて生きる幸せを、〇〇年の間に集めて生きたのかも知れません。 

 故人の夫

皆さん、本日のお見送り、本当にありがとうございました。

こんな足元のお悪い中、お忙しいところを、こんなにもたくさんの皆さまのご会葬をいただきまして、心からお礼を申し上げます。
故人もきっと皆さまの心温いお見送りを受けて、心おきなく、帰ることのない旅に旅立ったことと思います。

妻·〇〇。〇〇年の一生は決して長いものではありませんでした。〇〇のたった一つの心残りは、二人の子供がまだ成人に達していないことでした。
病床にあって、繰り返し、繰り返し、 「二人の子のことを頼みます」 と私に向かって手を合わせた〇〇の姿を、私は一生忘れることはありません。

皆さまの前で、思わず女々しいことを申してしまいました。 これも、〇〇亡きあと、母親と父親の二役を一人で務めようとする私の覚悟と受けとっていただくことで、お許し願いたいと思います。

皆さま、本日は本当にありがとうございました。