若き棋士たちの集いに出席して「新手の発見」


●棋士 加藤一二三

加藤です。

将棋指しの先輩として、何か一言述べよということですので、私が将棋と取り組んできた今までの経験から、定跡に向かう姿勢といったことをお話ししてみたいと思います。

日ごろ皆さん方も勉強されて、ご存じのように将棋には多くの定跡がありますが、新定跡が生まれる余地はまだまだたくさんあります。

常識を破るような新手を考え出したことは、私にもありました。その初めのものは、大野九段との対局前夜、家で調べていて発見しました。

大野九段は得意の三間飛車で来ることが予想されたので、その対策を練っていたのですが、二時間ほど駒を動かして調べているうちに巧い攻め方を見つけたのです。

果たして翌日の対局では、大野九段がその型で来たので、私は自信を持って研究の手順どおりに攻めていって勝ちました。

もう1つの新手は故山田九段との対戦中に発見しました。

当時棋力の充実していた山田さんは、堅実な彼にしては大胆な試みをしてきたのです。

これは余裕の成せる技なのですが、これに対して当初私は既成の受け方で応じようと思いました。しかし一瞬、全く新しい戦法が浮かんできました。それに魅力を感じて腰を据えて考え込んだのですが、読めば読むほど成立する手という気がしてきます。

こういうところは、今までに何度も指されているので、自分が考えているようなことは当然、他の棋士も気が付いたはずだがと思い、なにか相手にうまい対策が用意されているのではないかと考え直してみても、やはりこちらにとって不利な変化は出てきません。

一番効果のない場合で、五分五分の分かれが予想されます。

五分五分の戦いなら決戦を避けてはならないし、また新機軸を打ち出しての互角なら、心理的に言ってこちらに勝ち目があります。

それと、山田さんが研究の成果を問うために意欲的な戦法に出ているのに、自分だけがいつまでもありきたりの指し方に甘んじていてはいけないとも考え、ついにある程度の成算を見出したところで、その新手に一局の勝負を託しました。

それから、人の将棋を見ていて、新しい妙手を発見することもあります。かつて、大山十五世名人と二上九段の勝負が終わった直後”感想戦“を聞いていたときに、両者が全然気付いていない妙手を見付けました。
この型はしばしば生じるものなので、もし妙手が成立するとなると、従来の定跡は変更を余儀なくされるのです。私は勇躍して家に帰って、その新手の効果を確かめました。そしてこの決め手は、しばらくたって順位戦の勝負のときにぶつけて、勝つことができました。

日に日に進んでいるのが、現代将棋と言えます。皆さんがたの、まますの御健闘と御精進を祈り上げます。

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