◆中学校教諭の転任のあいさつ

 

 私がこの中学校にきましてから、四年の月日が流れて、今日は皆さんとお別れしなくてはならなくなりました。先生になろうと決心して、自分は生徒に慕われる、日本一いい先生になろう、そんな期待で若い胸をふくらませて、この学校にまいりました。そして一年C組を担任し、三年間ともに泣いたり、笑ったり。若い私は泣かされることのほうが多かったようにも思うのですが‥…・。

 もう全員卒業して、いまは高校生ですまして歩いている生徒の顔を見ると、彼らの成長の早さに感嘆し、年月の流れをふと思います。この四年の生活の中で、先生になってほんとによかった、と思うことは、三年間私が担任したクラスで、成績は中以下、あまり勉強もせず、いたずらをしては私を怒らせ、ときには泣かせたワンパク坊主が、卒業して、彼の家は裕福ではなかったので、町の工場に就職したのですが、四月のある日、卒業してはじめて私をたずねてきました。

 「先生、これ、僕のはじめての月給で買ってきました。どうぞ使ってください」

 そういって、小さな包みを私にくれました。あけてみますと、湯のみ茶わんなのです。

 「僕は、先生を困らせてばかりいましたけど、勤めに出たら、先生みたいに叱ってくれる人いないんです。叱られるありがたさがわかりました」

 と、はずかしそうにいうと、彼は引きとめる私をふり切るようにして、帰ってしまいました。

 それからは、その湯のみでお茶をのむときは、彼のことを思い出し、また叱ることのむずかしさなどが身にしみてきまして、ほのぼのとしたり、※冷汗三斗(れいかんさんと)の思いをしたりしていますが、それでも「ああ、ほんとに教師という職業をえらんでよかった」と、しみじみと実感いたします。

 人間は、学校の成績だけで評価できるものでなく、また職業の種類で評価できるものではありません。といって、だから勉強をする必要がないのだ、ということではなく、精一杯自分の能力に応じた努力をし、誠実に学業に仕事にはげむことが大切だということなのです。そしてお互いの人格を尊重して心豊かな人間として生きることです。

 どうか皆さん、生きる価値を知ることのできるよう立派な人間に成長してください。

※たいそう、ひやあせをかくさま

行列200mオーバーの最高の中華そば!!

文例集トップへもどる