Do you believe this mysterious story?

あなたはこの話を信じられますか?


久々の「怖い話」の登場である。と言っても今回は、「怖い」というよりも「不思議」な話である。

私がこれから書く話を、信じるか信じないかは、あなたの自由である。


私が以前書いた「折渡峠」をお読みになった方はご存じだと思うが、その中で登場したタクシードライバーのSさんが今回も主人公である。


今から15年前の出来事。

Sさんは勤務を終え、仲間達と雀荘で麻雀を興じていた。夏の暑い日のことだった。

たっぷりと遊んだ後、Sさんは外に出た。そして帰宅の途に着こうと車に乗った。

そこからどうやって車を運転したのか、Sさんの記憶は全くない・・・・・。


ふとSさんが気が付いたのは、辺り一面今まで見たことのない山中であった。

「どこだここは・・・? 何で俺はこんな所にいるんだろう・・」

いくら考えてもSさんは自分が何故ここにいるのかがわからなかった。ついさっきまで仲間と麻雀をしていたことは覚えているのだが、その後の自分の足取りがサッパリとわからないのだ。そして気が付けば山の中。

Sさんは、何かに促されるように、その山をどんどん登ったという。車は置いて徒歩で登り始めたのである。しかし登れど登れどいっこうに山頂が見えてこない。そして家に帰るという目的すら忘れてしまったのである。いや、頭の片隅にはその意識があったのかもしれない。だが車に向かおうとすると、足が動かなくなるのだ。気持ちとは裏腹に、足は勝手に山の奥に向かっていくのだ。

Sさんにはこの時、時間の感覚もなくなっていた。夜になり、どこで寝たのかも覚えていないという。

そして幾日が過ぎていった。食べるものは何もない。あったのは雀荘から持ってきたコーラ一本だけだった。それを飲みつなぎ、山中をさまよった。車に向かおうとすると、やはり足がどうしても動かなくなる。「このままでは間違いなく死んでしまう。」そんな不安に駆られていたとき、Sさんは人の声を聞いた。それは確かに人間の声で、目を凝らして辺りをよく見ると、山菜かキノコ採りに来たらしき男達二人の姿を見つけた!

「あんた、こんな所で何してるんだ?」と男達に話しかけられたSさんは、「俺にもわからない」と答えるしかなかった。

「とにかく俺の家に電話してくれ、頼む・・・」と自宅の電話番号を男達に教え、男達も「わかった」と言ってその場を去っていった。

Sさんはすぐにでも救出されるものと思っていたが、いくら待っても誰も来ない。そうしてまた幾日かが過ぎていった・・・・。


もはやSさんの体力も限界に近づいていた。

本人はまだ数日しか経っていないだろうと感じていたが、実はこの時点で一週間以上が経過していたという。

彼の足は、山を下る方向にはどうしても動いてくれなかった。疲れ果てた彼の体は、まるで何かに取り憑かれたかのように、意識とは反対の方向に進まねばならなかったのだ。

飲まず食わずで相当な日数が経ち、Sさんが失いつつある意識の中で、かすかながらも捜索のパトカーのサイレンの音を聞いても、「これで助かるのだ」とはなかなか思えなかったという。

こうしてSさんはようやく救出された。麻雀をした日、つまり遭難した日から現実社会では実に15日以上が過ぎていた!


その後Sさんはまわりの人達に事の一部始終を話したが、誰も彼の話を信じてくれない。

いかがだろう、ここまで読んできた皆さんも、にわかには信じられない話ではなかろうか。

当然Sさんの話を聞いた人達も彼をいぶかしがり、親戚の中には彼を精神病院にむりやり通院させた人までいたらしい。

この話を私が聞いたときも、すぐには信じられず、半信半疑だった。

まず食べ物はどうしたのか。人間が飲まず食わずで山中を15日以上も生き延びることは可能なのだろうか。しかも彼本人には、物を食べたという記憶がないのだ。

足が脱出・救出の方向に向かわない。どうしても遭難の方向に進む。これもわからない。

電話番号を教え、救出を願った男達は何者なのか。そして何故通報しなかったのか。(通報したかもしれないが、結果的にすぐに助けは来なかった)

雀荘から出てすぐに記憶がなくなっているのは何故か。

その山はどこなのか。現実にある場所なのか。

私はこれらの点をSさんに直接質問したが、Sさんはあまり話したがらない。この話の全体をここまで聞き出したのも、かなりムリヤリである。従ってまだまだ詳細な点を付け加える必要があるのだが、なかなかSさんに会う機会がないので、もうしばらくお待ちいただきたい。

ちなみに最後の質問、どこの山の中であったのか。これには答えてくれたSさん。

「実際にある場所だ。今ならその場所がちゃんとわかる。でもその時はどこなのかサッパリわからなかった」

また自分はそんなに長い間迷っていたという感覚はなかったらしく、せいぜい二〜三日だと意識していたらしい。


Sさんはこの話を人にすると、聞いた人達すべてから、「それはキツネかタヌキにでも化かされたんだろ」と一笑に付されたり(そう言ってオチをつける人もすごいが) まともに聞き入れてもらえないことが多かったので、次第に人に話すことをやめたらしい。

「いつか機嫌の良い夜にでも詳しく教えるから」とSさんに言われてしまった私は、その時まで楽しみに待つしかない。

さてこの話、あなたはどう思いますか?

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