先日、店のお客さんの、タクシードライバーの方から聞いた話である。

前書き

皆さんはタクシードライバーと聞くと、仕事柄、様々な体験をしているものと思われるかもしれないが、実はそのような体験をしている方はごく少数で、ほとんどの方は何事もなく日々車を走らせている。ちなみに、私の義父もそんなプロドライバーの一人だが、運転歴二十年をゆうに越すベテランでありながら、「不思議な体験はない」と断言する。どうやら人によっては全くそのような体験はしないようである。
だから超常現象を頭から否定する人は、ここから先は読まないで下さい。「またくだらないこと書きやがって」と思われる方は、もし今暇ならばこのまま読み進めていただきたい。読後、こんなこともあるのか、と思っていただくだけでも書いた者としては幸いである。

場所は本荘市の隣町、大内町、折渡(おりわたり)峠というところである。峠道は大内町から、隣の岩城町につながっており、夏になれば、そのワインディングした道路ゆえ、飛ばし屋のライダーなどが集まり、その腕を競ったりする光景がよく見られる。何を隠そう、この私もその一人であった。

この峠道の頂上付近には、折渡千体地蔵という、今や全国的にも有名になった地蔵尊があり、日中は地元からはもちろん、全国いたる所から参拝に訪れる人達で賑わっている。また秋田方面から大内町へ抜ける際にもよく使われる道で、交通量は日夜を通して決して少なくない道である。



しかし昔からこの峠には、「幽霊を見た」という噂が常々あり、地元では一つの心霊スポットとなっている。また、午前零時ごろにここを車で通ると、地蔵様の付近から無数のカエルが出てきて、車を追いかけてくるなどという、とんでもない噂まである(カエルが苦手な人には本当に恐ろしいだろうが)。 しかし今回のタクシードライバーの証言で、どうやらその幽霊らしきものの噂は、(その存在の真否は留保するとしても)本当だったということがわかったのである。

 

前置きが長くなってしまった。そろそろ話の核心に触れることにする。


先のタクシードライバーのお名前は、佐々木さんという。あえて実名である。年齢は五十代半ば、長年タクシー稼業を営み、その運転歴は三十年以上である。この恐ろしい出来事が起こったのは、後部座席にお客さんを乗せ、秋田市から大内町まで運ぶ途中、深夜過ぎ(後日、後部座席に乗っていた人に確認したところ、午前2時過ぎだったそうだ)その峠にさしかかったときのことだった。

 峠の頂上付近には、前述の通り、無数に並ぶ地蔵様を奉る地蔵尊がある。深夜にそのすぐ脇の道路を通るのは、かなり気持ち悪いことだ。しかし佐々木さんたちはここを通ることが近道になることから、その峠を選んで走ることになった。時刻はもう車一台通ることのない、午前一時頃。後部座席のお客さんは酔いつぶれている。せめてこのお客さんが起きていてくれれば、佐々木さんがこれから体験する恐怖も、少しは和らいだことだろう・・・。
 峠を登りはじめ五分もすれば頂上の地蔵様の所を通ることになる。一台の対向車とすれ違うことなく、佐々木さんの走らせるタクシーは、その地蔵尊の辺りに近づいていった。そしてそこを車が通りかかったとき、佐々木さんの目には、何かがボーッと立っている姿が映ってきた。近づくにつれ次第にその姿が鮮明になってくる。
それは漆黒の闇の中に立つ、若い女性だった。そして手をあげて、こちらをうかがっている。 佐々木さんは、「こんな時間におかしいな」と思いつつ、今は空車ではないため乗車させるわけにはいかず、窓を開け、丁寧にその旨を伝えたそうだ。「これからお客さんを送り届けるところですから、すみませんが乗せられません」と。佐々木さんはこの時、おかしいとは思いながらも、そのまま峠を下まで下っていった。そして峠も終わり、麓の道まで出ると、そこにもまた誰か立っているではないか・・・・・。

 

佐々木さんは、この時体中の汗腺から冷や汗吹き出したそうだ。
そう、立っていたのはまぎれもなく、先ほど峠の頂上で話しかけた女性だったのだ!! 同じ顔、服、そしてなにより、その女性の背後が透けて見えたという。佐々木さんは、じっとこちらを見つめている女性を見ないようにしても、どうしても視界に入ってくるので、後部座席で寝ていたお客さんに大声で呼びかけた。
「○○さん!起きてくれ!」

しかしいくら呼びかけてもそのお客さんは起きない。
その時・・・・「どうして乗せてくれないの?・・・・・」
という女性の寂しげなささやきが・・・・・。空耳だろうか・・!?
しばらくしてようやくお客さんが目を覚ましたとき、すでにその女性の姿はなかったそうだ・・・・・・・。


佐々木さんは、この他にもまだ多くの不思議体験をなさっています。それらについては、また次回にお知らせいたします・・・・。

 

断っておきますが、ここで紹介した怖い話は、あくまでも深夜の出来事ですので、日中であればここ折渡地蔵尊は、とても荘厳な場所であるとともに、多くの人でにぎわっておりますので、ぜひお出かけになってみて下さい。ちなみにのこの地蔵様は、「イボとり地蔵様」として有名です。

PS.ココに書いた話は2001年7月、日本テレビ系の「峰竜太のホンの昼飯前」と言う番組で採用、放映されました。(佐々木さん本人もテレビに出演しました(^^ゞ
しかし、放送された内容は演出上
この話と中身がゴチャゴチャにされており、私としては不満の残るデキでしたが。